耐えるのは美徳?|産婦人科コラム

耐えるのは美徳?

2010年12月06日
 

『38歳Nさん。
診察室に入るや、ほとんど表情を変えずに、きちんと座って私をまっすぐ見据えていました。
とそのうち、みるみるNさんの目に涙が大きくふくらみ、アイラインとマスカラで強調した目から、大粒の涙が頬をつたって流れました。よく見ると、軽く唇を開いて、声を出さないで歯をくいしばって泣いているのです。
このままではどうしていいか見当がつかないので、気を取り直してわが本来の医者の姿に戻り、いくつかの質問をしてみましたが、最低限しかしゃべりません。完全に事情が分かったわけではありませんが、とても大変な状況にあるのは確かなようでした。』

患者さんが目の前でポロポロと涙を流して泣いたときは、まずは『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』を処方することにしています。
たいていの人は泣く行為自体をかなりこらえているでしょうし、Nさんのように声を出さずに歯をくいしばって耐えているには相当にキツイはずです。

「かわいそうに」と同情する位しかないのですが、そこは漢方薬の出番で、『抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)』も一緒に飲んでもらうことにしました。
『抑肝散加陳皮半夏』はいろいろな患者さんに飲んでもらいましたが、一人でじっと殻に閉じこもって、自分一人で大変な状況に立ち向かっているような人たちに効くようです。

Nさんは、夫の暴力と子供のことで悩んでいたようでした。
日本人は「耐えるのが美徳」という考え方が根強くあります。一人で全部背負って解決するまで耐え忍ぶようなタイプの方に『抑肝散加陳皮半夏』を飲んでもらうと、少しずつ気が楽になって口に出して助けを呼びやすくなるような気持ちにさせる不思議な薬です。

こういうことは、多分そういう状況なのだろうと推測して飲んでもらうしかないのですが、実際に効くときには、はたから見ていてもわかりますから「なんと不思議でありがたい薬なのだろう」と新鮮に驚いてしまいます。

すっかり同情してしまって、Nさんに『甘麦大棗湯』と『抑肝散加陳皮半夏』を二週間分処方しました。どうしたらよいかは答えてあげられませんでしたが、話くらいは短い診療時間でも聞いてあげられると思ったからです。

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