ストレスが原因の病気(その2)|産婦人科コラム

ストレスが原因の病気(その2)

2007年06月07日
 

『42歳Pさん。生来、神経質なところがあり、胃腸をこわしやすいタイプ。半年前、職場の配置換えがあって、それ以来体調不良が続く。同じ職場内とはいえ、新しい部署の人間関係にうまくとけ込めず、それを契機に不安感や息苦しさを感じるようになった。その頃から胃腸の調子も悪く、突然に下腹部痛を伴った下痢をおこす。エレベーターなどの閉鎖された空間に入ると、どうしようもなく不安になってドキドキするし、胸から喉にかけて何かがつまっているようで、息苦しくなってくる。最近は高校生の娘さんとの折り合いも悪く、症状は悪化してきた感じがするとの事。』

Pさんは、友人から心療内科の受診を勧められましたが、「精神安定剤の類いは飲みたくない」「なるべく自然なもので治したい」という希望にて来院されました。来院時は、顔面はやや赤みを帯び、みぞおちを軽く拳で叩くとチャポチャポと水の音がしました。

今まで何度かお話した「心下振水音」という所見ですね。胃腸の動きが悪いために胃の内容物をスムーズに腸に送り出せずに胃内に水と空気が滞ってしまった状態です。

さて、Pさんを治療するのにどんな処方にするかですが、不安感や息苦しさ、胸から喉にかけてつまった感じは「気うつ」(以前の号参照)を疑わせる症候です。胃腸虚弱があることも明らかです。そこで、私は胃腸は後から補うことにして、『半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)』を処方しました。

3週間後来院したときは「休みを2週間取って自宅でのんびり過ごしました。お薬も効いて気分がすっきりしました。」とおっしゃっていました。でも調子がいいのは、仕事から離れてストレスから解放されたせいだと感じたのは、仕事が始まったら、また調子が悪いという話を聞いてからでした。その後もお薬を飲み続けてもらいましたが、いまひとつ不安感が取りきれません。

そこで、胃腸虚弱も治療する目的で『茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ)』に変えてみました。これは『半夏厚朴湯』に『茯苓飲』を加えたものです。2週間後「今度のお薬は食欲が出て、いつの間にか胃腸のことが気にならなくなりました。カゼをひいても体調が大きく崩れることもなくなって、不安感もほとんど起こらなくなりました。」との事。

今回、私自身が反省させられたのは、「気うつ」ばかりに注目して、胃腸のことを後回しにした点でした。『茯苓飲』は朝鮮人参がたっぷり入った薬で胃腸虚弱には良い薬ですが、「心下振水音」がある人に有効で、しかも『半夏厚朴湯』との相性がよいのは古来より経験的に知られています。Pさんにはまさしくうってつけのお薬であったわけです。

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