認知症に対する漢方薬|産婦人科コラム

認知症に対する漢方薬

2017年01月09日
 

「財布がなくなった」「赤いヤッケを着た女の人がいる」「私はどこも悪くない」「家族がみんなだらしないので気合いをいれている」「どうもお邪魔しました」。これらはレビー小体型認知症と画像診断された82歳の女性の言動です。正常な方でも発する言動ですが、時と場合によっては、周辺の人もおかしな言動と感じることがあります。

当院には老健施設に入所中の方も婦人科のトラブルでよく来院されますが、認知症が進行してくると介助されるスタッフや家族の方もいろいろな意味で大変です。数年前から認知症に対する漢方薬として『抑肝散(ヨクカンサン)』が注目され、最近使用されている方も多いようですが、今回はこの薬に関してお話いたします。

『抑肝散』は「釣藤鈎(チョウトウコウ)」と「柴胡(サイコ)」という生薬の組み合わせで鎮静の効果が強い漢方薬です。もともとは小児の夜泣きやひきつけに用いられていましたが、最近の研究では特にレビー小体型認知症の不眠・徘徊・不安・焦燥感・食行動異常・幻覚・妄想・暴言・暴行などの周辺症状にも有効なことが分かってきました。

以前に認知症の女性に使用しましたが、数週間後には全般的に「落着き」が現れてきたようでした。その後、その方のご主人が妻の認知症を受け入れることができずに怒鳴り散らすことが多くなるという家族の訴えで、今度はご主人にも『抑肝散』を処方しました。

夜泣きの子供には母親のストレスを考慮して母親も同時に服用(母児同服)することが効果的であることは古来から知られています。先の症例では夫婦同服によりご主人も妻の認知症の理解と「落着き」が現れてきたようです。

『抑肝散』は近年になって頻用され、その有用性が特に「レビー小体型認知症の緊張状態を緩和する」という点で認められていますが、記憶障害、認知機能障害などの中核症状の改善には至っておりません。すなわち『抑肝散』は認知症そのものを治す漢方薬ではなく、日常生活動作の改善、介護者の負担の軽減につながる有用な漢方薬として位置づけられます。漢方薬の効果を過度に期待するのではなく、この点を理解して使うことが重要です。

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医療法人社団 公和会 中村記念愛成病院
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