冷えからくる下痢と漢方薬
2019年03月13日『38歳Sさん。半年前から下痢が止まらなくなり、近医で消化管の精査をしたが異常を認めず、 いろいろ薬を試したがよくならない。朝方に臭いのない下痢をよくする。元々冷え性があり、 疲れたりストレスが溜まると下痢はよくおこる。寒い季節になると下痢が悪化する傾向が あり、漢方薬を試したいとの事で来院。』
Sさんは冷え性で下痢があります。朝方に下痢をよくする理由は、朝は体温も気温も低い ため、身体が温まるのに時間を要するからです。Sさんのようなタイプでしかも手足が 冷えて下痢をする人には『人参湯(ニンジントウ)』をよく用います。
人参湯は「乾姜(カンキョウ)」「人参」「蒼朮(ソウジュツ)」「甘草(カンゾウ)」 の4つの生薬で構成されています。『人参湯』という名前から「人参」が主役と思われますが、 実は「乾姜」が主役です。これは、「生姜」を蒸して乾燥させたもので身体を温める作用と 下痢止めの作用があります。「人参」には代謝を改善したり、消化吸収を良くする作用があり、 これが下痢を止めて脱水を改善するわけです。昔でいえば点滴の代わりのようなものです。 また「人参」は体力が低下した人を元気にします。特に下痢をする人には消化吸収を高める ことによって元気になりますから、全身倦怠感が改善されます。
『人参湯(ニンジントウ)』で十分効かない場合には『附子末(ブシマツ)』を加えて 胃腸だけでなく全身を温めるようにします。胃腸の冷えは、飲食や体質だけでなく、感染症 でも起こります。
冷えというのは機能低下や血液の循環不全をおこします。下痢に頭痛が加わった場合には 『人参湯』に抗頭痛作用のある「桂皮」を加えた『桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)』 を使います。おなかが冷えると頭が痛くなるような人には効果的です。以前に紹介した ノロウイルスの下痢などのウイルス性急性胃腸炎の場合、寒気がして熱がでて頭痛もあれば、 まさしく適応になります。また私が外来でよく使う症例では「よだれがでて止まらない」 ときです。悪阻の方に多いのですが、この症状で困っている方は是非お試しください。 とくに寝ているときのよだれを取ってくれます。
管理栄養士さんが困っている「経腸栄養で下痢をしている人」は基礎代謝が低下している ことが多く、消化吸収機能の低下が下痢の原因ですので『人参湯』の適応にもなります。 このように冷えと代謝の関連は密接ですので、いろいろと漢方薬の出番はあるわけです。