カゼと漢方薬(その1)|産婦人科コラム

カゼと漢方薬(その1)

2005年03月10日
 

「カゼは万病のもと」といわれますが、漢方の得意分野の一つです。女性に限られた疾患ではないのですが、漢方診療のルールを知っていただく上では好都合のテーマなので今回より数回に分けてお話します。

カゼの患者さんが来院した場合、カゼの症状のどのステージにいるかをまずはっきりさせるのが先決です。漢方ではカゼを扱うときの大切なものさしがありまして、「表裏」「寒熱」という考え方があります。「表」とは体の表面、「裏」とは体の奥、特に内臓を意味し、位置関係を示します。口内や喉はその間なので「半表半裏」と言います。「寒熱」とは冷えるか熱いかを意味します。

さて、カゼの初期症状は「表」から始まるのですが、「表寒」と「表熱」の2通りがあります。漢方診療には「他覚所見よりも患者の自覚症状を優先する」という鉄則がありまして、体温計で38℃以上でも、患者が悪寒(寒気)を訴えるならば、こちらを重視するのです。

悪寒は体の表面で感じますから、「表寒」のサインですね。「寒気がしますか?」のたった一言の質問は大変重要です。というのは、35℃で体が熱いと言う人もいれば、38度で寒気がある人もいるわけですから、この質問で「表寒」か「表熱」か決まるわけです。また、「表寒」の人は舌を診れば、苔がついていないか、あってもわずかですから診断の助けになります(ご自分でも出来ますね)。

「表寒」のカゼの人には、「表」を暖める生薬が含まれている漢方薬を使えばいいわけですが、その代表生薬には、麻黄(マオウ)・桂枝(ケイシ)などがあります。

これらは発汗させる作用があり、「表寒」のときの処方の基本になります。桂枝とは薬用シナモンのことで、かじるとものすごく辛く、じわーっと汗が出てきますが、胃に負担をかける位に強烈なんですね。

これを含んでいる桂枝湯は漢方処方の基本となる薬でいろいろな使い勝手があります。(桂枝湯には、桂枝自体が胃を荒らすので、ちゃんと胃を守る生薬も加えてあるんですよ。ココが漢方は生薬のブレンドであるスゴイ点なんです。)

桂枝単独では発汗作用はさほど強くないのですが、桂枝は麻黄と組むと、発汗作用はさらに強力になることが知られており、この性質を利用したのが麻黄湯です。

ところが麻黄は桂枝と同様に胃を荒らすんですね。となると、当然、胃を守る生薬はセットで含まれていると思いますよね。でも入ってないんですよ。なぜでしょうか?

実は漢方薬は含まれている生薬の数を増やすほど即効性が落ちるんですね。だから、余分な生薬は入れないのです。麻黄湯は1回か2回飲む位で効く薬なので、胃が弱い人でも一気に治したいときは使えばいいのですよ。

胃が悪い人で本人がゆっくり治したければ桂枝湯ということになりますね。(麻黄湯の立場で言わせてもらえば、「ウチは桂枝湯サンのようには、カッタルイ仕事はしないですから、胃を荒らすのが嫌な方はどうぞ桂枝湯サンへ行ってくださいな。」という感じでしょうか?)「カゼの引き始めに葛根湯(カッコントウ)」で有名な葛根湯の話は次回に。

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