病は「気」から?(その5)
今回も症例を紹介しながら解説します。
『41歳、Eさん、女性。以前より便秘がちであった。このところ仕事上のトラブルでストレスを感じていたが、腹部の膨満感が次第に強くなり、腹がはって胃のあたりまで苦しい。市販の下剤を内服したが改善しないため、来院。』
おなかの状態は、「気の異常」をとても分かりやすく反映してくれます。「気」が満ちているか、足りないかは風船のイメージに似ています。空気を入れすぎても足り無すぎても風船はダメですね。Eさんも、便秘が元々あったにしてもストレスがこの症状を引き起こしたのでしょう。「気」が上の方で一杯になり、腹部膨満感が出現したものと思われます。
処方した漢方薬は大承気湯[ダイジョウキトウ]でした。1週間で便秘はすっきりし、膨満感もかなり改善したとの事。さらに継続して、お腹の苦しい感じはほとんど無くなったので症状があるときだけ内服してもらうように指示しました。最近は薬をあまり取りに来ていません。
大承気湯には、大黄[ダイオウ]という生薬が含まれていますが、テレビのCMで知っている方もいらっしゃるでしょう。これは下剤として有名なのですが、実は単なる下剤ではないのです。気が有り余ってカッカしている状態を抑える(鎮静)作用や、熱を外にすてる(清熱)作用もあります。大承気湯は読んで字の如く「気を承(うけたまわ)る」ですよね。つまり、余っている「気」を処理してくれる薬なのです。
ただし、この薬で下痢はしないのか?というご質問のある方はなかなかスルドイですね。Eさんは下痢はしませんでしたが、ある方は下痢になりました。ここが漢方のすごい点で、「気の異常」がひどい方は内服してもあまり下痢しないのですね。「気」の薬としてまず最初に作用し、次に「下剤」として作用するようです。ですから、「気の異常」のない人には、直接「下剤」として効いてしまうのです。
この場合の「下痢」は病気ではなく、体の反応なのですね。よく「イライラすると下痢になりやすい」という方がいますよね。これは、下痢によって、気の異常を解消する手段なのです。ですから、こういう人に下痢止めを出しても治りません。逆に「下剤」でこの人の下痢の代行をしてやると、ぴたっと下痢が止まるんです。意外と多いですよ。
古人は下痢をさせて病を治す手段を経験的に知っていたのですね。
同じような不安を抱えている方が
いっらっしゃいましたら、
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