ストレスによるめまいと漢方薬
『39歳Sさん。元々頭痛持ちで、近医で鎮痛剤を処方され、毎日内服していた。家庭内のストレスもあり夫と口論し、廊下にてめまいでふらついて倒れたのを家族が目撃して救急外来を受診。頭部CTなどを含めて神経学的な異常所見は認められず、「末梢性めまい」の可能性が疑われた。その後、家族とともに漢方薬を試してみたい意向で来院。』
ストレスが加わると過呼吸を呈する点などから心因性の可能性があり、めまいの性状は「回転性」で身体を動かすと悪化するようでした。来院時に「涙を流している」こともありましたので、『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』『苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)』を処方いたしました。内服して10分後にはめまいが軽減して、立ち上がってもめまいの悪化は起きなかったようです。2週間後の来院時には以前より精神的にも少し楽との事で2週間追加して増悪しなければ再診しなくてもよいという事にいたしました。
『甘麦大棗湯』は精神興奮やヒステリーなどに使われる漢方薬ですが、「涙を流す」ことがしばしば目標とされます。また、めまいに使われる漢方薬には『沢瀉湯(タクシャトウ)』『苓桂朮甘湯』『真武湯(シンブトウ)』などが知られていますが、『沢瀉湯)』は激しい回転性のめまい(グルグル回る)に、『苓桂朮甘湯』は立ちくらみに、『真武湯』は浮動性のめまい(足元がフワフワする)に対して用いられます。
Sさんのめまいは回転性でしたが、頭位を変えると悪化することで「立ちくらみ」としてとらえて、『甘麦大棗湯』『苓桂朮甘湯』を合わせて内服してもらいました。実はこの薬の合わせ方は、古典にも「奔豚(ホントン)」といって、お臍の下から動悸が突き上げてくるような状態(一種の気逆(詳細は既刊号参照))に有効とされています。現代医学では、不安神経症やいわゆる自律神経失調症(古い言い方ですが)の症状で何かきっかけがあることで起こる状態に相当します。Sさんは夫との口論で「涙を流した」直後に発症しており、一種の「奔豚」とみなすこともできると考えて処方いたしました。
『苓桂朮甘湯』は個人的には大変気に入った漢方薬で、様々なケースに処方いたします。私の家内は漢方薬嫌いですが、どうしてもめまいがしんどいとの事で、しぶしぶ『苓桂朮甘湯』を内服してもらい、飲んだ直後から軽快しました。漢方薬の効果を実感してもらいましたが、やはり飲みにくいとの事で今でも差し迫った状況にならないと漢方薬は飲んでくれませんね…
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